溢れる気持ち
むかし。小学生のころ。両親とは上手くない毎日だった。父親だけでなく、母親からも殴られていた。
ある放課後、図書室に集まってちょっとした都市伝説の話をしたことがあった。
隣町の公園の電話ボックスで、とくべつな手順で番号を押し、ユキちゃん大丈夫?と訊くと、もう遅い、と男の声で返ってくるというものだった。
明日やってみようというのがふたりだけ。残りは、馬鹿馬鹿しいとふたりに言い放った。
次の日、ふたりのうちのひとりが欠席した。もうひとりの方が僕にひっそりと声を掛けてきた。
あいつ、一緒に行くって言ったのに、昨日抜け駆けしてひとりで行ったらしい。バチが当たって風邪引いたんだろ、と。俺は今日行くけどお前も行くか、と言われたが、行かないと断った。
次の日、もうひとりの方も欠席した。
後でわかったのだが、ふたりとも身内に不幸があったらしい。
学校から帰り、貯金箱を叩き割った。きちんと数えもせずに、いくらかの小銭を握ったが、隣町までの電車代には間に合うだろう。
震える手でポケットに小銭を押し込んだ。
母親が、どこへ行くのかと怒鳴り声をぶつけてきたが、構わずに外へ出た。駅へ走った。
やっと。やっと今日で。
2/5/2024, 11:31:10 PM