一ノ瀬

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 モールス信号を習得することにした。理由はなく、ただの気まぐれである。だがこれがどうにも性に合ったのか、あっという間にマスターしてしまった。
 今日も僕は先輩といるときにせっせとメッセージを発信する。どうやら先輩はモールス信号を知らないらしく、「寝癖ついてますよ」「明日雨降るらしいですよ」と甲斐甲斐しくモールス信号で伝えてみても、先輩は寝癖を一向に直そうとしないし傘も持ってこなかった。こんなこともあろうかと僕が予備の傘を持っていなければ、先輩は今頃風邪を引いていただろう。
 そんなわけだから、せっかくなら先輩に対して普段から思っているけど積極的に言葉にしていなかったことをこっそり送ろうと思った。ただの自己満足だ。でも楽しければそれで良い。
 何も知らない先輩の前で、僕はモールス信号でひたすら「ありがとう」と送り続ける。怒涛の感謝を浴びせられながら、先輩は全く素晴らしく笑っているので、たとえ届かなくても僕は満足である。
 ところで、最近先輩がわざわざ「ありがとう」と口にする回数が増えたような気がする。秘密のメッセージがとっくにバレていて、全部わかって返しているのであれば、恥ずかしいので早く教えてほしい。

1/30/2026, 2:26:12 PM