安達 リョウ

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無垢(運命共同体)


てくてく歩き、止まり振り返る。
―――また暫く歩き、立ち止まり、振り返る。

かれこれこの行為をこの散歩中、何度繰り返しただろう。
自分と同じ行動をそっくりそのまま真似てくるそれに、彼女は大いに戸惑っていた。

「………」

どうしよう。
………引っ越して間もない近所の様子を知ろうと、ただ何となく散歩に出ただけなのに。
―――思い悩みながら歩みを進める間にも、それは一定の距離を保ちつつ自分の後をついてくる。

そもそも何でこうなったんだっけ?

………ああ。公園を通っていたら、あれ?首輪のついてないちっちゃい犬がいるなーと思って、目があったような気がしたのは確かだけど。
いやただそれだけだったような。

「………」

放っておいたらどこまでもついてきそうな彼(彼女?)に、わたしは根負けして振り返ると、そのままそこにしゃがみ込んだ。

「………。おいで?」

手招きすると、犬さんは素直にとてとてやってきて、くんくんとわたしの手に鼻を擦り付ける。
「可愛いね、どこから来たの? 飼い主は………いなさそうだね」
いないとなると、野良犬………なのかな。
犬種はなんだろう。よくわからない。雑種、でいいのかな。

「わたし犬、飼ったことないからなあ」

思い出す。
昔こっそり産まれたての捨て犬を拾って帰ってきたとき、母にこっぴどく怒られてもとの場所に戻してこい!って怒鳴られたっけ。
今じゃそんなことしたら動物虐待で通報されそうだけど、当時はどうってことのない日常の一幕だった。

―――小さい体、か細い声。

とてもじゃないけど置いてはいけないから病院には連れて行くとして、………それで?

「………何でそんなに懐くの。わたし良いひとじゃないよ? 君を食べちゃうかもよ?」
怖がらせようと目一杯悪人の顔で犬さんに近づいた途端、ぺろりと頬を舐められた。

………舐められてる。
いや誰が上手いこと言えと。

『いいから捨ててきな!』

―――今でも鮮明に思い出す。
あの時は泣く泣く従ったけど。

「親のいない者同士、気が合うかもね?」

もう二度と会うまいと誓ったあのひとは、今頃どうしているだろう。

いや、もうそれは考えるまい、と。
わたしはその手に余る蜜色の体を抱き上げた。


END.

6/1/2024, 2:38:55 AM