『風景』
タロットのフール、愚者のカードが昔から気になっていた。
ひとりの青年が、太陽の下、左手に花、右手に包みをくくりつけた棒、足元には一匹の犬と共に、空を見上げている。ルルルと鼻唄まで聞こえてきそうだ。
――あと一歩でも踏み出せば、崖から転落するという状況なのに。
目の前に迫る危険に気づかないことが愚かなのか、それとも気づいていて踏み出そうとしていることが愚かなのか。
どちらにしても、彼はどこか幸せそうに見えるのだ。恍惚の表情と言ってもいい。
うららかな陽光は、気持ち良かろう。
切り立った崖は、さぞかし見晴らしが良かろう。
彼の眼前に広がる風景は、いったいどんなものなのだろう。
それを見てみたいと思う自分も、愚かなのだろうか。
4/13/2025, 8:27:19 AM