いろ

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【秋🍁】

 赤く色づいた紅葉が見たいのだと君は言った。布団から起き上がることもできない身で、ぼんやりと天井の木目を眺めながら。
 庭の木を見るけれど、暦の上では秋を迎えたとはいえまだ紅葉は青いまま。あれが色を変えるまで君の命が保たないだろうことは、君の病状をずっと診てきた私が一番よくわかっていた。
 少し待っていてと告げ、刀を腰に帯び山へと向かう。『作業』をしてから家へと戻り、紅葉を一枚君の眼前へと掲げてみせた。
「ほら、持ってきたよ。これが見たかったんでしょう?」
 そう問えば君はひどく嬉しそうに無邪気に微笑んだ。生まれた時から重い病に冒され、満足に生きることすら叶わなかった君がそうして笑ってくれるなら、私はそれ以上は望まない。

 斬り殺した山賊の血で真っ赤に染まった紅葉を見て、綺麗だねと笑った君は。その翌日、ひっそりと黄泉路へ旅立った。

9/26/2023, 9:50:31 PM