わをん

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『友情』

男だけど家には化粧道具が山ほどある。きっかけは動画サイトでどこにでもいそうなおじさんがヘアバンドを巻き、よくわからない手順を踏んでウィッグを被る頃には二次元から出てきたかのような美少女に変貌しているというショート動画を見かけたからだった。おじさんよりも女性寄りな顔をしている自分ならさらにかわいくなれるのではないか。見様見真似を続けるうちにそれぞれの化粧道具の役割や自分に合う色味がわかるようになり、変身系な動画に加えてコスメ系の配信も見るようになり、写真投稿から動画投稿、そして配信へと段階を踏んでそこそこのレイヤーへとなっていった。
レイヤーとして活動している子に気になっている人がいる。彼女とはオンラインから知り合ってオフラインでもコラボ企画に誘ってもらったり誘ったりとレイヤーとしてはツーショット写真もたくさん撮ってきた。今日もそんな企画でスタジオにいる。
「はい、じゃあもうちょっと寄ってみようか」
カメラマンに乗せられてふたりの距離感が縮んでいくけれど、どこかを境にそれ以上は近づかせてくれなくて壁を感じている。学生だった頃に見たクラスの女の子たちは距離感近めだったけれど、一分の隙もなくかわいい彼女を想う気持ちがただの友情だったならもう少し近づくこともできたのだろうか。
「いいねぇ、仲良し女子って感じだよ~」
顔を寄せて微笑みながら、本当の女の子たちを羨ましく思っていた。

7/25/2024, 5:46:13 AM