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『やさしい嘘』

「僕があなたの“お兄ちゃん”になってあげましょうか?」
僕が姉に愛されていないことを打ち明けた時、彼はそう言ってくれた。

彼は、僕を愛さなかった姉に唯一愛された人だ。
僕が初めて彼の存在を知った時、彼は姉に愛されているという事実に対する嫉妬で狂いそうになった。
彼と話している時の姉の笑顔を見る度に、僕の中の殺意がどんどん膨らんでいった。
でもそれと同時に、彼は姉が認めるだけの人間だとも思った。堂々とした揺らがない姿勢。冷淡に見えて、実は誰よりも仲間のことを思っている。
僕は段々彼に憧れるようになっていった。
憧れと嫉妬は執着に変わり、執着は強くなっていく。
気がつくと僕は、彼を毎日ストーキングするようになっていた。
しかし、素人の尾行はすぐにばれる。
彼に問い詰められた僕は、今までのことをぽつりぽつりと話した。
僕が話している間、彼は怒鳴ることも責めることもせずに、静かな声で相槌を打ちながら聞いてくれていた。
話し終えると、彼が僕の目を見て言った。
「なら、僕があなたの“お兄ちゃん”になってあげましょうか?」
前の僕なら拒絶していただろう。姉の代わりになれる人間などいない。
でもなぜかその時の僕は、彼に対する嫉妬や羨望の念が一瞬だけ消えたような気がした。
ただ純粋に、嬉しいと思った。
今まで僕に手を差し伸べてくれた人間は、彼だけだったから。
なのに。
なのに、なんで。
「律くんは僕の、大切な“おともだち”ですから」
彼が僕たちを裏切っても、僕たちの敵になっても。
僕に対する言葉は本心だと勝手に思っていた。
でも違った。
「やさしい嘘」を吐かれただけだった。
僕は彼の、“弟”にはなれなかった。

1/24/2025, 11:47:58 AM