つぶて

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別れ際に

 僕が親しい人ほどあっさり手を振ってしまうのは、約束しなくてもまた会えると盲目的に信じているからで、言葉を重ねるとかえって相手を信頼していない気がするのだ。いざ何かがあった時には後悔するかもしれないが、そのリスクを秤にかけても僕は信頼を取る。冷めた人間だという自覚はある。幸い、数年来の付き合いの彼女も同じタイプで、最初こそカップルらしくしていたが、今ではひらりと手を振る程度だった。
 そろそろ帰るか、と僕が言って、彼女とレストランを出た。今日は気に入った秋服が買えてよかった、と満足そうに彼女は言い、その様子に僕も満足する。地下鉄に降りて、改札前で別れる。またね、うんまた、と軽く手を振る。僕は踵を返して、別の路線に乗り込んだ。
 スマホを開くと、ラインの通知が来ていた。
『背中になんかついてたよ』
『まじか』
 最寄駅で確認すると、小さな枯葉が張り付いていた。
 僕は首を傾げた。彼女はいつ気付いたのだろう。
 それから思い当たった。彼女が枯葉に気づいたのなら、その場で取ってくれるはずだ。そうしなかったのは、僕と離れていて取れなかったからだ。
 次は、振り返ってあげよう。
 小さな枯葉がとても大事なものに思えて、僕は嬉しくなった。

9/28/2024, 4:26:28 PM