こんな夢を見た。雨が降るというので、傘を持ち出かけた。だが、一向に降る気配はない。
「何だ、雨降らないじゃん」
「いいえ、降ってますよ」
振り向くと、傘を差しレインコートを着込んだ女性が立っていた。彼女の頭上には雨が降っており、雨粒が傘を叩いている。
「ちゃんと降ってるんです。わたしの頭上には必ず。天気予報の『ところにより雨』ってわたしのことなんですよ」
いわゆる雨女なのだろうか。反応に困っていると、彼女はまた話し始めた。
「わたし、昔は雨女じゃなかったんです。ただ雨が好きで、傘やレインコート、長靴を集めるのが趣味な女だったんですよ」
「はあ…」
「ある時、思ったんです。雨が毎日降ってくれれば、集めた雨具が使えるのにって。そしてそれは突然叶いました。まさか、自分の頭上から降り続けるとは思いませんでしたが」
滅多なことを願うものじゃありませんね。そう彼女が肩を落とすと、雨脚が強まった気がした。
「雨のせいで、住んでいたアパートを追い出されるし、職場も退職する羽目になるし。散々ですよ」
「それで今はどうしてるんです?」
私が尋ねると、彼女は近づいてきた。
「今の話、全て今日あったことなんです。困ってるんです。家も仕事もなくして、これからどうすれば良いんでしょう」
「うーん…」
悩んでいると、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、中年女性が怪訝そうに見ている。
「あんた、何してんの。その人に関わっちゃ駄目よ」
「え?」
中年女性に腕を掴まれ、近くの喫茶店に連れ込まれた。席に腰を下ろしコーヒーと紅茶を注文すると、彼女に謝られた。
「ごめんなさいね、強引なことをして」
「え、いや別に…」
「あの辺ね、雨女っていう妖怪が出るのよ。あなたが話してた雨具を着けた女がそれなの。ああやって近づいて、自分の雨で濡らして仲間にしちゃうのよ」
まさか、妖怪だったとは。
「あまり変な人に近づかないようにね」
彼女はそんな風には見えなかったが。
「ほら、こっち見てるよ」
促され、窓の外を見る。同じ雨具を着けた同じ顔の女たちがずらりと並び、私たちを凝視していた。
3/25/2026, 8:57:14 AM