海月は泣いた。

Open App

仲間


仲間、というのは難しい。家族も友達も恋人もかげがえのない大切なものであることに違いないが、そのどれも仲間かと聞かれると素直に頷けない。大切なだけでは仲間という言葉に当てはまらない。そんな仲間、という言葉がピッタリ当てはまるような出会いだって多くは無い。仲間という存在に出会うことのない生涯も大いに有り得るだろう。俺は、仲間というのがそんな難しい存在だと重々分かっていてもこいつらを仲間だと胸を張って言えてしまう。味方とは少し違う。でも、一番の味方で、一番の敵である存在。辛いことも楽しいことも数え切れないくらい分かちあってきた。これを仲間と言わずになんと言う。
スポットライトぱっと消えて、いよいよ次が俺らの番だ。待ち焦がれた舞台。本番の音が近づいて心臓が軋む。早くなる鼓動を落ち着かせようと胸を撫で下ろして、ふっと吐いた息は震えた。
目の前の顔たちは強ばっていたけど、その瞳は強く輝いていた。天の川みたいに沢山の光を含んで、その光を緊張と不安と期待とでゆらりと揺らしていた。いつもは見ない仲間たちの表情に緊張なんて吹き飛んで思わず笑いを零した。その笑い声が合図だったみたいに俺らは中心に吸い寄せられて慣れた円陣を組んだ。今までの景色が走馬灯のように流れる。息を大きく吸い込んだ。
「俺は、お前たちと出会えて良かったと思ってるよ」
いつもは絶対に言わない恥ずかしい言葉。でも、何よりの本心だった。ずっと心の中で思っていたこと、伝えるなら今しかないと思った。顔を上げて真っ直ぐ目を合わせて言った。みんなは一瞬驚いた顔をして、それですぐ目元をくしゃくしゃにして笑った。
「行こうか」
これが最後かもしれないという不安はとうに消えていた。今はこいつらと楽しむことだけを考えていればいい。痛いくらいに眩しいステージへと俺らは歩き出した。

12/10/2023, 10:21:02 PM