【お題:失われた輝き】
数十年経ってもあの日を鮮明に思い出せる。
周辺諸国との度重なる戦争で戦果を上げ、大国となった帝国。その功労者と問われたら間違いなく、当時の騎士団長、レザン・ヴィーニュだと断言出来る。
しかし、その名をこの帝国で告げる者はいない。
ある、暑い日だった。団長の公開処刑が行われたのは。
帝国が発展する裏側で、当時国を騒がせていた、神出鬼没の殺人鬼。国王から『ヴァイン』と呼ばれ、指名手配されていたその人が、団長だったためである。
なぜ? と問うても、答えてくれる者はもう存在しない。彼は己自身の事を語る為人はしていなかった。
処刑前、私は団長に会った。何かの間違えだと証明したかった。
ただ、当の本人が否定も、肯定もしなかった。私に言った言葉も、罪を肯定するような言葉だった。
「いいかルイ。罪はいつか裁かれるものだ、俺でソレに慣れておけ。騎士団というのは他国と戦うことだけが仕事ではない」
立て! と騎士団ではなく、傭兵団の傭兵に連れていかれる団長の背中は、いつものように威風堂々としたものだった。
凱旋パレードでも、あそこまでの熱狂は与えられないと思う。
処刑台に立つ団長の姿。そこに野次を飛ばす国民。
人を殺すのが罪ならば、私達騎士団はどうなのだろう。
今、目の前で団長を殺せと叫ぶ国民達は罪に問われないのだろうか。
罪を裁かなくてはいけないならば、裁き方が死のみならば、この帝国に住む者達は、総じて死ぬべきなのではなかろうか。
血溜まりの上に立つ国であるのだから。
かつて、周辺諸国を戦で圧倒し、大国となった帝国があったという。
最後の騎士団長。ルイ・サンドリオンの政策により、元から円形だった街並みを整え、水路を張り巡らせた様は、他国からの侵略を防ぐ壁により閉鎖的な帝国を、観光地としての価値を与えた。
しかし現在、それを見ることは叶わない。帝国跡地に赴いたとしても、焼け爛れた瓦礫の山だからだ。
「見事なまで……だな」
「まぁ、わかってはいたけどね。あれから何年経ってるっけ?」
「知らん」
一言で切り捨てた目の前の男性。無節憖は、異端児の特徴とも言える翼を少々パタつかせた。
多分、灰が翼に付き気になったのだろう。
帝国の最後は呆気ないものだった。
張り巡らされた水路に、多量のガソリンが流され、引火されたソレは、帝国を瞬く間に飲み込んだ。
前日、僕と憖さんはたまたま帝国にいたので、実際のルイ・サンドリオンに会ったことがある。
笑顔に影がある危うい女性だった。王子に取り入り、政治に関わり、帝国を内側から変えて行ったと本人は語っていた。
そこまでした理由を僕達が知ったのは、帝国を去った少しあとである。
鉄でできた重厚な門が閉まるのを見届け、帝国が見えるか見えないかまで離れた時、背後が急に明るくなった。
夜夜中に移動するのは、憖さんに合わせてだ。だが、この時はソレが幸をそうしたと言わざるおえないだろう。
背後の眩しいまでの明かりは、炎でできていたのだから。
「最近各地で起こってる、炎上事件と関わりがあるかと思って来てみたが……」
「なんの形跡もないね、全くアインさんも無茶言うよ、レークスロワで奇々怪界な事件なんて、日常茶判事なのに」
「特殊警察からの頼みでもある。シャル、文句言ってないで、可能性を潰していくぞ」
はーいと軽く返事を返すが、憖さんは気にした様子もない。ま、いつものことだけど。
ーー罪が裁かれると言うならば、嬉々として団長を処刑した国民も裁かねばならないと思いませんか?ーー
そう、ルイ・サンドリオンは言った。
彼女が行ってきた政策は全て、あの炎上のためだけの仕込み。
帝国そのものを裁くための、ただの下準備。
そこまで行った彼女が、かつての団長に向けた感情は、尊敬だけだったのか……全ては彼女のみが知ることである。
「行くぞシャル、ここに居てもどうしようもなさそうだ」
「了解。ま、収穫がないのも収穫だよね」
栄光という名の失われた輝きはもう戻らない。
ーあとがきー
此度の語り部は前半ルイちゃん、後半シャルくんです。
失われた輝きと聞いて、最初は宝石か、瞳かを思い浮かべたのですが、どちらも短編にするにはなぁと頭を悩ませ、栄光も輝きって呼ぶよなと相成りました。
今回の話は失われた帝国の話だったので、せっかくシャルくんが語り部なのに、帝国の話しかできなかった…!
レザンさんについても、どこかで語りたいですね。ヴァインについて、あまり語れなかったので。
憖さんとシャルくんが調べろと言われてる炎上事件も、どこかで話せるだろうか…?
桜華程ではないですが、帝国……後に亡国と呼ばれるこの場所も、語る話はまだまだあります!
広がるだけ広がって、全然回収できてない気がする…。
それでは、今回はここまで!
また、どこかで。
エルルカ
11/29/2025, 4:58:05 PM