『柔らかい雨』
僕が修行した地、アンドロメダ島は過酷な環境だった。
昼は灼熱地獄、夜は凍り付くような極寒で、僕は初日から熱を出して寝込んだ。ダイダロス先生がいなければ、半年ももたずに命を落としていたと思う。
そのダイダロス先生に僕は師事し、聖闘士になるための修行を受けた。先生の修行はとても厳しいものだった。でもそれは、僕を聖闘士にするため、そして、この過酷な地で生き抜くための力を付けさせるためだったんだと思う。事実、僕は一年も経つとこの環境に慣れていった。
でも先生には悪いけど、僕は聖闘士になるのが目的ではなかった。僕はこの修行に耐え、聖衣を持ち帰って兄さんと再会することこそ、僕の生きる目的だった。
だから、例え修行とはいえ先生や、共に修行を受けるジュネさんに拳を向けることがどうしても躊躇われた。修行を続けるうち、僕の中に巨大な小宇宙が育ち目覚めつつあったのも理由の一つだ。このまま修行を続ければ、二人を傷付けることになりかねない――そう感じた僕は、先生にある試練を受けることを告げた。
サクリファイス――決して切れることのないアンドロメダの鎖で体を縛り付け、海が満潮になる前に小宇宙を目覚めさせ、鎖を操り脱出する。
アンドロメダの聖衣を手に入れるために伝統的に行われてきた試練だ。失敗すれば勿論命はない。僕は覚悟の上でその試練を受けた。
そして、僕は体内の小宇宙を爆発させ試練に打ち勝った。僕はアンドロメダの聖衣を授かり、これで兄さんに再び会うことができる。僕の心は希望で満たされた。
その時、頬に一粒の水滴が落ちて僕は空を見上げた。いつの間にか雲が広がり、雨が降り始めていた。折りしも一ヶ月ぶりに降る雨はまるで僕を労うように優しく、柔らかかった。
11/6/2023, 11:49:03 PM