「なあ、プルキンエ現象って知ってっか?」
そいつは世界の果てまで届きそうな大音量の笑い声をたてながらそう言った。その足元には死体が転がってるのに。デカい口からのぞく世界は赤くて、その裏に血が通っていることを簡単に予感させる、生を感じる、嫌な色。 今しがた殺した奴の生きた証と同じ色。
「知らねえ」
「簡単に言えば、暗い場所では赤色はほぼ見えねぇって現象。ほらこれ見ろよ。傑作だぜ」
下卑た笑い声を滲ませたままそいつが指さしたのは壁にへばりういたステッカーだった。暗がりではよくみえないが、目元を縁どった鋭い眼差しがこちらを睨んでる、そんな風に見える。
「なんか書いてあんな。あー……『犯罪は許さない』?」
「そう。そのステッカーさ、元々は『にらみ』を利かせるって意味を込めて、元々は隈取の目のイラストだったらしいぜ。赤色の隈取は正義感を表してるんだってさ。なあ、最高に面白くねえか? 見えなくなっちまうんだよ赤が。正義が。暗闇に呑まれて! 一緒だなぁこの世界と!」
そこまで解説した彼はまたゲラゲラ笑う。皮肉の痙攣か、魔物の咆哮か、はたまた嘆き声なのか、俺には判別がつかなかった。
昔、この街は明るく平和な場所だった。だが今はその名残だけを抱いて、犯罪が横行する常闇の世界へと腐り果てている。
「……許さねえってんなら、消えないでくれよ」
足元に広がるさっき殺した奴の真っ黒にしか見えない血を蹴っ飛ばした。この街に今は正義はない。消えた。暗闇に押し潰されて。ただただクソったれな日々を覆う闇だけが横たわっている。
お題/鋭い眼差し
10/15/2024, 5:51:44 PM