※この物語はフィクションです。登場する人物および団体は実在のものとは一切関係ありません。
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タイトル『サンタさんへのプレゼント』
十二月も半ばにさしかかった頃、夕食の支度をする私の耳に、いつものお絵かきの音が聞こえてくる。画用紙がクシャッとシワを寄せる音、色鉛筆が紙をこする音。
案の定、リビングの隅で六歳の息子リクが画用紙を広げて絵を描いていた。その背中がいつもよりも楽しそうで、私はリクに近づいて思わず声をかける。
「リク、何描いてるの?」
私の声に、リクはびくっと肩を揺らし、全身で画用紙を覆い隠した。
「な、ないしょ!」
必死すぎて笑ってしまいそうになる。けれど、六歳の小さな体からチラチラと絵の断片が見え隠れするのが、また可愛くてしょうがない。
『サンタさんへ』
画用紙の端に力強い文字が躍る。そして腕の隙間からは、ちらりと赤い三角帽子らしき絵が見えた。
――へぇ、サンタさんへのプレゼントか。
胸がふわりと温かくなった。
サンタへのお返しなんて子どもらしい発想だな、と息子の優しさが誇らしくなる。
でも、気づいちゃったことは黙っておこう。秘密は秘密のままにしておくのが、魔法を長持ちさせるコツだ。
「そっか。じゃあ完成したら教えてね」
「ダメ、教えないったら教えない!」
リクは小さな背中をまるめ、さらに画用紙に覆いかぶさった。
そんな姿を見ながら、私は夕飯の支度を続けた。
ほんの少し前まで何をするにも私に『見て!』とせがんできていたリクが、こうして自分だけの秘密をこしらえるようになったのだと思うと、嬉しいような、寂しいような、不思議な気持ちになる。
その夜、布団に入るとリクがぽつりと聞いてきた。
「お母さんはサンタさんにプレゼントお願いした?」
「お母さんは大人だからもらえないよ」
そう答えると、彼はむぅっと唇を尖らせた。
「えぇ、そうなの? でも、もしもらえたら何がほしい?」
思いもしなかった質問に、しばし思いを巡らせる。
すこし前までは自分へのご褒美にと時々欲しいものを買ったりもしてたけど、最近は仕事と家事に追われ、そんな事も考える余裕もなかった気がする。
「そうだなぁ」私は少し考えて「お母さんはリクといっぱいお話できる時間がほしいかな――」
「それはプレゼントじゃないよ!」
リクが無邪気に笑う。確かにサンタにお願いすることではないかな。
そして迎えたクリスマスイブ。
昼間に全力で遊び倒したリクは、布団に入った途端にすやすやと眠った。
「よし……そろそろかな」
私は用意していたプレゼントを取り出し、そっとリクの枕元へと近づく。するとリクの頭のすぐ近くに、小さなお菓子の空き箱がひとつ置かれていた。見慣れた不器用な文字で『サンタさんへ』と書かれている。
――あの時のプレゼントだ。
私は思わず微笑んで、箱をそっと持ち上げる。箱を軽く振ると、中でカタカタと音が鳴る。
箱を開けて中で折りたたまれていた画用紙を開く。色鉛筆で描かれた『サンタさんへ』の文字と、サンタクロースの絵。そして――。
笑顔で並ぶ親子の絵が描かれていた。
思わず胸が熱くなる。
『らいねんは おかあさんにも
プレゼントを あげてください』
すぐ下に書かれた震えるような文字に、息が止まりそうになった。こんな優しいお願いがあるだろうか。
自分のプレゼントより、私のことを気にしてくれたのだと思うと、一気に視界がにじんだ。
ふとお菓子箱の隅に黄色く光るものを見つける。折り紙の星。中心に小さな文字で――
『おかあさんのほし』
思わず声が出そうになって、慌ててプレゼントを枕元に置くと、画用紙とお菓子箱を持って部屋を後にした。
その夜はリビングでリクの絵を眺めながら、温かい涙が優しく流れていた。腫らした目を擦って筆を執った時には、すでに空が明るくなり始めていた。
翌朝。リクは目を覚ますなりサンタからのプレゼントを抱えて跳ね回り、すぐに箱が空になっていることにも気づいたらしい。
「サンタさん、ぼくの描いた絵、ちゃんと見てくれた!」
「よかったね」
私はリクの笑顔を見ながら、エプロンのポケットを探る。昨日受け取った折り紙の星の感触を確かめながら、リクに宛てた手紙を取り出す。
「リク、サンタさんからお手紙が来てたわよ」
手紙を受け取ったリクの目がキラキラと輝く。
『リクくんへ
とてもやさしいプレゼントをありがとう
このほしはきっとおかあさんがよろこぶから
おかあさんにプレゼントするね
これからもたのしいことやうれしいことを
おかあさんにたくさんはなしてあげるんだよ
サンタより』
手紙を読んだリクがピョンピョンと飛び跳ねながら嬉しそうにしているのを見て、またぐっと胸が熱くなる。
澄みきった冬の朝に、シャンシャンと鈴の音が響いた気がした。まるでどこかで本物のサンタクロースが、私たちを優しく見守ってくれているかのように。
#贈り物の中身
12/3/2025, 3:09:09 AM