薄墨

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曇りの日、肌の黒いあの子と一緒に拾った猫だから、cloudy。
灰色で、小さくて、気まぐれな僕の飼い猫。
今は棺の中で、静かに眠っている。

cloudyは、曇り空というより、埃の塊みたいだった。
部屋の隅でころころ走り回る様子は、箒に転がされ、風に吹かれて転がる、埃の塊そのものだった。
…拾ったときも、箒で転がされていたし。

だから、僕はあの時、一緒に助け出した子猫にdustとつけよう、だなんて、無邪気にもひどい提案をした。
今思うと、本当にひどい案だった。
あの子は目を見開いて、ひどく傷ついたような顔をして、それから、勢いよく首を振ったのだ。

僕はあの頃、何も知らない無邪気な少年だった。
動物虐待という言葉も、人種差別という言葉も、排他主義というイデオロギーも、いじめという言葉の実感さえ持たない、未熟で無知で幸せな子どもだった。

あの日、泣きそうな顔で子猫を助けに行った友人の、あの切羽詰まった悲しそうな形相の理由も、助け出したcloudyの病的なほどの怯えも、当時の僕には、全く訳の分からないものだったのだ。

あれから、cloudyは僕と一緒に大きくなった。
cloudyを共に助け出した友人のあの子は、僕らが成人する間に、政策やら世間体やらに追い詰められて、とおに、遠くへ行ってしまった。

僕の少年時代、無邪気で穏やかで何もかもが新鮮で楽しかった思い出は、みんなあの子とのもので、人間に失望した哀しく辛い思い出も、大抵あの子とのもので、
それを時折、忘れないように抱かせてくれるのが、いつまでも、ふわふわと綿埃のような毛並みをしたcloudyだった。

cloudyは今、棺の中にいる。
僕の少年時代と一緒に。

cloudyはきっと、本物の雲になるのだ。
火に焼かれて、煙になって。

そして、僕とあの子の頭の上に、あの日のように、優しく、どんよりと立ち込めるのだ。

僕はcloudyに別れの挨拶をする。
僕の愛猫と、僕の思い出と、あの子に、別れの挨拶をする。

9/23/2025, 12:01:34 AM