『バカみたい』
決まった時間に急かされることもなく、毎朝決まって乗るべき電車もない春休み。
今の私の世界の半径は、ひどく狭い。
バイト先へと向かう見慣れた道程と、代わり映えのしない自室。その単調な往復運動の中で、時間だけがぼんやりと通り過ぎていく。
何かを成し遂げなければいけないような焦りの輪郭と、布団から出たくないという抗いがたい倦怠感が、頭の中でずっと泥水のように混ざり合っている。
ふとした瞬間に上手くいかないことばかりが目に付いて、また、ため息をつく。特別な何者かになれるはずもないのに、こんな狭い世界で立ち止まっている自分がひどくちっぽけに思えて。
「バカみたい」
誰にともなく、ぽつりとこぼした自嘲は、部屋のぬるい空気の中に溶けて消えた。
けれど。
すべてが灰色に塗りつぶされているわけじゃないことは、本当は知っている。
例えば、夜中に突然訪れる通話の通知音。イヤホン越しに響く友人の、笑い声ととりとめのない会話。
月に一度程度のサークルの予定で外の空気を吸い、人と顔を合わせて他愛のない話で盛り上がるあの瞬間。
バイト帰りにふと感じた夜風の冷たさや、重たい体をベッドに投げ出した時の安堵感。
そんな、劇的でもなんでもない、ごくありふれた日常の欠片たち。
狭くて退屈だと思っていたこの世界にも、よく見れば確かな体温があって、静かな喜びが息づいている。
何も進んでいないように見えても、このちっぽけで愛おしい日々の中で、私はちゃんと呼吸をして、無意識に明日を待っている。
「バカみたい」
今度は少しだけ口角を上げて、もう一度つぶやいてみる。
こんな風に思い悩んで、足踏みをして、そしてまた小さな光を見つけては少しだけ安心する。そんな自分の不器用さも、案外悪くないのかもしれない。
3/22/2026, 5:09:07 PM