2023/06/05 【誰にもいえない秘密】
俺には、誰にもいえない秘密がある。
z家の事情とか、性癖とか、それこそ自分だけの秘密基地とかそういうのじゃない。
-そんなことよりも、もっと残酷で、暗く、重く、悲しいことだ。
もう日が沈みそうな時間帯。後ろを振り向くと、太陽が町中を淡く照らし出していた。俺はそのまま、ある山の裏側周って行く。山に隠れたせいか、一気に暗くなったように感じた。しかし、それでももうほとんどの光が見えないくらいに暗くなり始めている。もうほとんど日が沈んでしまったのだろう。俺はポケットから小型の懐中電灯を取り出して歩き始める。
街の裏側にある、ちょっと小さな山にあるこれまた小さなお墓。そこで、約一ヶ月ぶりとなる墓参りに来ていた。ある墓の前で止まって、よくみたら花がまだ新しかった。その花には見覚えがあった。
-まさか、あいつがきたのか?
それは、死んだ母が好きな花だった。その時期になってはよく花屋で買って花瓶に生けていたのを覚えている。でも、それを知っているのは、俺以外に、“今は”1人しか いない。
-“あのこと”を知ってるんだったら、なんで何の連絡もよこさないんだよ。あのクソ親父。
俺たちを捨てたあの親父がここ駅たのなら、なおのこと腹が立つ。
俺はいけてある新しい花を抜き取り、今日自分が買ってきた花を添えた。そんなことを躊躇なくできるようになってしまった自分にも吐き気がする。
-でも、もう遅い。
もう後戻りができないところまで来てしまったんだ。暗闇の中懐中電灯に照らされた墓石が妙気味悪く感じられる。その墓石が、自分に何か訴えているような心地にすらなった。
「-兄ちゃんが必ずお前の仇を取ってやるからな。」
さっき懐中電灯が入っていた場所とは別のポケットから取り出したものを見て、俺は幾らか心が救われた。そこに映る、今はもう亡き妹を見て。
俺は、懐中電灯の明かりを消して歩き始める。もうすっかり日が暮れて周りには人っ子一人いない。その中でも月明かりは健在で、町中を明るく照らしていた。
俺は自分のハッグからあるものを取り出した。
満月の月明かりを、無骨なナイフがやけに反射していた。その光が、危険な色を孕んでいた。
6/6/2023, 9:49:57 AM