こひる

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『伝えたい』

まるで違う人格に入れ替えられたようだ。

母さんは今日も一点を見つめている。したいことは一切ないそうだ。
「元気?」
「うん。」
「どこか痛い?」
「いや、、、」
「時間あるけど、行きたいところはない?」
「ないかな。。」
「何か困っていることない?」
「ないよ。」
「今日は天気がいいね。昔、母さんは自転車でどこまでも行ってたよね。」
「・・・」

母は元気な人だった。いつもニコニコしていたし、大きな声で話す。新聞配達をしていたし、家族に隠れて可愛い物を集める趣味があった。よく食べ、よく寝る。片手で卵を割ろうとして失敗するし、スパゲッティをフォークとスプーンで不器用に食べる。

母はいつも何かを心配していた。
母はいつも何かを気にしていた。

「あんたなら、分かってくれるかな。あのね、、、」
俺は母の話を止めた。めんどくさいことを聞きたくなかった。どうせ、また父さんの愚痴だろう、近所付き合いがうまくいっていないのだろう、、、

あれから、5年。
少なくても、週一回は様子を見に行き、月一回の通院には必ず付き添う。主治医から「どうですか、眠れていますか?」と聞かれ、母さんはどちらとも取れる曖昧な返答をする。薬を減らすことはできない。

「母さん、俺、結婚することにしたんだ。」
「そう、、、」

あの頃の俺に伝えたい。
「この、親不孝者がっ!!」

2/12/2026, 12:20:28 PM