友人が最近、恋をしたらしい。お相手は、よく利用するカフェの店員だそうだ。
まあそれは別にいい。毎日「今日のあの子の髪型が〜」だの、「毎日お疲れ様ですって言われて〜」
だのと聞かされるのは多少鬱陶しくもあるが、楽しそうで何よりだ。
だが俺は今、真剣に頭を抱えている。
理由は、友人が俺に送ってきたメールにある。
そのメールには「彼女への想いを綴った詩」が書かれていた。
別に詩を綴るのも構わない。読んで感想を、とあったので読んでみたのだが、その感想をどうしたものかと頭を抱えているのだ。
まず書き出しがこうだ。
【君に出会ったその日から、僕のハートのメトロノームがカッチコチ】
……初っ端から突っ込みたい気持ちになるのだが、何処がどうおかしいのかが明確に言語化できない。
取り敢えず『カッチコチ』はどうかと思う。
【君の顔を見るだけで、8ビートが止まらない。
おっとテンポアップだ!
16ビートに変わったぞ! ナンチッテ😜】
……おじさん構文を混ぜ込むのはよせ。照れ隠しなのかもしれないが、普通に考えてただただキモい。
【君が微笑んでくれるだけで、胸の鼓動がワルツを刻む】
不整脈か?
【ズンチャッチャ ズンチャッチャ】
その一文は必要か?
……いや、それを言ってしまったら、この詩自体の存在意義が揺らいでしまうな……。
【タラリラリラリラリラ チャッチャラ〜】
うるせえ、さっさと話を進めろ。
【君の事を思うだけで、僕の鼓動は速くなる。
テンポアップ テンポアップ
アハハ🤣 速すぎてもう聴き取れないよ〜】
……病院へ行け。不整脈で診てもらえ。
【僕がこんな風になってしまったのは、全部キミのせいだからネ!】
いや、日頃の不摂生の賜物だろう。
【ドキドキドックン、ドンドコドン!】
何の音?
【僕の気持ち、いつか君に伝わるといいな。
LOVE いつまでも
LOVE 永遠に…】
唐突に締めやがった。もっと纏める努力しろよ。
俺は暫く、何と返事をしたものかと頭を抱えた末、友人に対してメールを返信した。
『循環器系の診察をお勧めするよ』と。
お題『胸の鼓動』
9/8/2024, 4:19:11 PM