aoi shippo

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 今日は、一年で一番日が長くなる。魔力が強まるこの日は、毎年、国で大掛かりな祭りが開かれ、あちこちに催しのテントが出る。
 わたしにとっても、特別な手助けをする、忙しい一日だ。

「お次の方、どうぞ」
 わたしは、自分のテントに入ってきた少年を、木の椅子に座らせ、目を閉じるように促した。
 吊りズボンを履いた少年は、大人しく言われるがままに腰を掛けたが、握った拳に緊張が表れていた。
 無理もない。これで、自分の運命が決まるのだから。

 わたしは息を吸うと、右手に持っていた一振りの枝をかざした。特殊な力を含む実がなった、ハイゼルの枝だ。
 さらさらと、少年の顔の前で、その枝を上下に動かす。
 ーーこの者の、秘めたる力が、現れますように。
 そして口の中で、呪文を唱える。手に持った枝が熱くなり、願いに応えるように震えた。

「いいわ、開けてみて」
 ぱっと、少年が目を開く。その茶色い瞳の奥には、先ほどまではなかった、小さな赤い花が映っていた。
「赤ーー〈炎〉の力ね」
「ほんと⁉︎ やった!」
 少年が顔を輝かせて、ぴょんと椅子から飛び降りた。テーブルの上にある鏡を覗き込む。
「父ちゃんと一緒だ」
 その様子に、思わず頬が緩んだ。
「よかったね」
「うん、ありがとう!」
 魔力を持つ者は、瞳の中に、その力に沿った色の花が咲く。
 だが、その種が芽吹くのは、一年にたった一日、今日という日にだけ。そして、〈時〉の魔力を持った者に、種の成長を手伝ってもらう必要があった。

 テントから出ていきかけた少年が、こちらを振り返った。
「お姉さんは、何の花の人ーー?」
 わたしは微笑んだ。
 わたしの瞳の中の花は、もうほとんど見えないくらい、色が薄くなっている。〈時〉の魔力のおかげで、この外見からは想像もつかないだろう、長い時を生きてきたから。
 外から、少年を呼ぶ、両親の声がする。
「花を、咲かせる手伝いをする人よ」
 そう告げて、テントの外へ彼を送り出す。
 
 きっと、わたしの花はもうすぐ散るだろう。でも、瞳の中に色鮮やかに開く、たくさんの花を見てこれたおかげで、心残りはあまりない。
 ただ、もし一つ願いが叶うならーーめったにない、〈時〉の花の芽吹きに、立ち会うことができたらいいなと思っている。



『瞳の種』
(花咲いて)

7/23/2023, 7:30:20 PM