名無しさん

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「今日だけ許してっ、まじで緊急事態なんだってば」
「……で、約束をすっぽかすほど重要なことって何?」
電話越しに慌てた声を聞きながら、淡々と彼女に遅刻のわけを問いかける。
約束の時間からもう30分が過ぎているのだ。
さすがの私でも我慢の限界である。
「……真剣な話だよ。冗談じゃないからね」
重々しく口を開いた彼女に、適当に相槌を打つ。
「うんうん、分かったよ。」
それを肯定とみなした彼女は、大きく息を吸い込み、
「道端で倒れてたおばあちゃんの財布が取られて、取り返すのに時間がかかったの。」
と、なんとも突飛なことを話し出した。
嘘でしょ、と乾いた笑いが零れる私に、トドメの一言。
「あなたのお祖母様なんだから、電話でもして確認したら」
素っ気なく言った彼女の言葉に、私はその場から動けなくなった。
「……本気で言ってる……?」
「全部ほんとだよ」
「……まじかぁ……」
彼女はバレる嘘はつかない。それは私が一番理解している。
だからこそ、自分の祖母が関わっているという事実に目眩がした。
「ごめん。菓子折り持ってお礼するわ。」
「もう貰ったしいいよ。謝礼金でパーッと遊ぼうじゃないの」
電話越しにでも伝わる上機嫌さに、釣られて笑ってしまった。
その日、彼女と祖母の金を使って豪遊というもう二度と体験することの無いようなものを味わったのだが、それはまた別の話である。

10/4/2025, 12:46:52 PM