(※二次創作)(月夜)
月の綺麗な夜に、随分無粋な輩がいたものだ。
アレクスは、いつもの通り、ひとり夜の街を歩いていた。気分が悪く、気晴らしにと外に出たらこれだ。
尾行されている。
とはいえ、大した脅威にはならない。有象無象、街のちんぴら、その程度の履いて捨てるほどいる取るに足らない屑ども――。
「っ……」
忌々しい不調がなければまだ、よかったのだが。
アレクスは足を止めた。ちょうど、筋道を入ってしばらく歩いた場所で、古い家に囲まれた空き地になっていた。
「よお、兄ちゃん、ちょっとばかし金を……」
ひゅう、と冷たい風が吹き付けたと思った瞬間、チンピラどもは氷の中に閉じ込められていた。きらきらと、月光に照らされ、美しくも見える。このまま、少し力を加えれば、この氷は粉々に砕け散るだろう――中身ごと。
「アレクス、やっと見つけたぞ」
メナーディが姿を現したのは、連中が完全に消え去った後だった。地面が濡れているのを見て、眉を顰める。
「また殺したのか?」
「追い剥ぎに、遭いかけました、ので」
立っていられなくなって、その場にずるずると崩れ落ちる。体調不良の原因は毒だった。ジャスミンたちに襲いかかった魔物の前に咄嗟に立ちはだかった際に、食らってしまった。
「相変わらず、毒には弱い奴だな」
「それで、なんの、用ですか……」
メナーディは鼻を鳴らす。傷は瞬時にプライで癒したアレクスだったが、その後の様子がおかしかった。夜、宿にいないのはよくあることだが、今日に限ってどうも気になって、探しに来たらこのザマだ。
肩を貸してたたせてから、メナーディは尋ねる。
「歩けるか?」
「あまり、この状態を、見られたくはなくて……」
「じゃあ、その辺の連れ込み宿でも探すか?」
「そう、ですね」
普段は喧々諤々、嫌味とデンジャラクトの応酬となるふたりが、静かにゆっくりと歩いていく。ただ月だけが、それを見ていた。
3/9/2024, 10:50:45 AM