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ずっと、逃げ出したかったんだ。

俺のいる街は、ある意味では見放された吹き溜りのような場所で。
正義も悪も、その日次第。何なら、毎秒入れ替わるくらいの碌でもない場所で。
そんな中で、大切だと思えるモノに出会えること自体が奇跡みたいな場所だった。

そう考えるなら、俺は幸運だった。
碌でもない街で、大切なものが見つけられたんだから。
その大切なものを、俺は守れなかった。
……いや。正確には、俺が手にかけたようなもんだった。

それ以来、この吹き溜りのような街で、俺はそれ以下の存在になった。
意味も、価値も、俺にはもうどうでもよくて。
生きているとは言いがたい、生きていることさえ忘れたように、ただただ日々を過ごすだけで。

だからーーーずっと、逃げ出したかったんだ。

大切なものを守れなかった弱さから。
大切なものを手にかけた罪から。
大切なものと引き換えに生きている現実から。

逃げて、逃げて、”ここではない、どこかで”やり直したかった。

ーーーけど、そんな逃避行も、もう必要ない。

「ーーーやっと、見つけた」

踞る俺の前に現れた影と、落ちてきた言葉に、漸く終われると密かに安堵した。



ここではない、どこかで

4/16/2023, 1:55:36 PM