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 目の前で起きていることが現実なのか、理解が追いつかず何も聞こえない。内側でぼぅっとした音らしきものがするだけだった。
 可能性は低いが、あり得ない訳じゃない。俺達が生きている世界は生死との境が近いから

 事切れた君が、故郷の雪原にいるなんて。そんな馬鹿なこと。

 何度も繰り返し触れ合ったあたたかな熱があった筈なのに氷のように冷えきって、もうどこにもなかった。青白い顔に白い花が落ちる。
 隠さないでくれと、連れ出したいのに君をその場から動かすことができない。雪だけ深く君が埋まって……次第に息苦しく、視界が霞んだ



 額が冷たい…。目もとを押さえられる感覚に意識が浮上した。

「うなされてたよ。つらい?」
 心配そうに覗き込む君がいた。首筋に手が行き、その手のぬるさに驚いていると「まだ熱は引かないね」と。
 俺は風邪を引いているらしい。
 「食欲は?喉渇いてない?」甲斐甲斐しく看病をしてくれる君がいてあれは夢だと。ベタベタした顔や体を拭われて悪いものまで拭き取ってくれたかのように呼吸がすっと軽くなった。

「また様子見に来るね」
一通り世話をし終えて出ていこうとする君を掴む。

「無理なお願いって分かってるけど、一緒に寝てくれないかな…」
 風邪を移したくはないが、あの続きを見てしまいそうな不安と風邪を引いた心細さで、1人になりたくはなかった。手の震えはどちらからきたのか

「…いいよ。私も心配だったから」
 空けたスペースに君が入ってくる。冷たくはない、俺の好きなあたたかさ。胸元にすり寄って額を押し付けた。
「子どもみたい」とクスクス笑っている。

「おやすみなさい、良い夢を」
 
 見つめる瞳は穏やかなもの。あの夢の君も『安らかな瞳』だった気がする。それだけが救いで、耳に届く心音にゆっくりと目を閉じた。

3/14/2023, 10:33:06 PM