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木漏れ日

 両側に大きな街路樹が並ぶ、見通しの良い一本道に差し掛かった。
新緑の木々が揺れて、木漏れ日がガラス越しに降り注ぐ。
 助手席では母がずっと、ある人の悪口を言っている。
運転に集中しつつも真面目に受け答えしていたが、いつまでも終わらないのでもう相槌を打つだけにした。
 細く開けた窓から柔らかい風、ラジオからは爽やかな音楽、煌めく木漏れ日。
こんなに心地好い昼下がりなのに、母の悪口は対象を代えて延々と続く。
 何かに心を囚われている人は、周りの美しさなど何も目に入らないのだなぁ…と思う。
そしてそんな母を疎ましく思う私もまた、心を囚われている。
こんなにも輝く春の日なのに。

5/8/2025, 5:05:44 AM