〈お題:手を取り合って〉ー評価:凡作
「君は何故、動かないのか」
項垂れた男は、その激動の感情に酔いしれるばかりで動こうとしない。
「己の無力を知るのが怖いのかね?期待されていないと云う事実を知ってしまうのが怖いのかね?」
もちろん心の上では、みな彼に期待している。
応援もしている。彼ならやれるだろうと。
失敗しても、初めから出来ないと分かっているから、失望もされない。彼は生きやすい世の中に辟易していた。
「微塵も期待されないのがそんなに辛い?
以前、君は期待されたくないと言っていたではないか。もしかして、上辺だけの期待に応えることも出来ない無能だと気が付いてしまったのかね?」
彼は酷く落ち込んでいる。周りの人達がみな彼に無関心であると悟ってしまったのである。
「君の失敗を本気で叱らないのも、君の事を誰も見ていないからこそだ。知っていたのだね?」
彼は、塞ぎ込んでしまった。
猛暑日だというに、心が冷え込んでしまった。だから少しでも暖まろうと自分を抱き寄せている。
「君の失敗を通して自分の行動を律している大人たちを知ってしまったから、君は無気力になってしまった。」
彼の肉体は暑さで眩暈を起こしていた。
そうすると、より鮮明に声が聞こえてくる。
「人に愚行を晒しても誰も見てくれない。ネットに自身の愚かさを晒しても、行動や行為を責め立てるばかりで君を見てくれる人は無い」
悪行には、批判が集まる。
しかし、彼を批判する言葉は少ない。
悪行は勿論、行儀や容姿や貧富を叩かれるばかりである。彼を真剣に叱ってくれる人は無い。
「君は、君の心に触れてくれる人がいない。恋愛で慰め合っても徐々に虚しくなっていく。何故なら、観客を求めて彷徨ってしまうから。二人の世界に、二人の関係性を肯定してくれる第三者を求めてしまうから」
自分の存在価値を示したい。
恋人は彼を薪にしているだけである。
彼は恋人にとって、ただの消耗品であると自覚していた。
「君が今感じているその怒りも、君を見ていない僕からの言葉のせいだ。教えてあげよう。」
少し声が薄れているのに彼は気が付いた。
「君は僕や僕以外に自分を訴え、理解されるのを求めている。その原動力が怒りだ。」
本当に声に対して怒りを向けているのか。
自分の感情が行き先を見失っている。
わなわなと震えているのは、猛暑が原因か、或いは反論すら出来ない自身に対するものか。
『君の近しい人を大切にしなさい。
心通わせることを恐れては、縁は歪んでいきますよ。お互いに助け合って生きなさい。』
7/14/2024, 1:48:01 PM