白井墓守

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『愛する、それ故に』

愛とは難しいものだ。
僕は亡骸を前に一つ溜息をついた。

愛している、と言われた。
僕は、愛していないと、言った。

それでも良いと言ったのは彼女だった。
僕は、僕なんて止めた方がいい、そう言った。

愛している、と言われた。
僕は、彼女を愛しかけていた。

――だから、別れようと言った、言ったんだ、僕は。

別れない、と彼女は言った。
愛しているから、と彼女は言った。

だから、僕は……。


「ただ、ずっと一緒に居たかっただけなんです、分かるでしょう? これは愛なんですよ、愛」

目の前の刑事はあからさまに溜息をついた。

「だからって、人間を殺して椅子にして良いわけないでしょ……アンタ、狂ってるよ」
「だとしたら、狂ってるのは世界の方だ」

目の前の刑事は呆れたように無言で首を振った。

……だって愛しているんだ。しまったんだ。心の底から。
だから、愛する、それ故に……。

君の亡骸は、驚いたように目を見開いた顔をしていた。

「……愛してるって、言ったじゃないか。嘘つき」


おわり

10/9/2025, 12:11:07 AM