ヒロ

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暦通りに移り変わらない季節に油断して。
どうせまだまだ暑いだろう、なんて高を括っていたら、まんまとしっかり風邪を引いた。
あーあ。衣替えの時期を見誤ったな。
でもな。俺だって、そろそろ長袖とかにしないと不味いかな。と気にはしていたさ。
けれども、朝と昼間で十度も差があってみろ。
朝の気温に合わせたら、昼間暑くて汗かくし。
昼に合わせて薄着していれば夜には寒くてくしゃみが出る。
まあ、七分袖とかカーディガンとか?
もっと細やかに調整できるものを取り入れれば良かったかもしれないが、生憎そこまで服装に意識を割けるほど仕事は暇じゃない。
お陰で見事に風邪引きさ。
こんな極端な気温じゃあ、俺じゃなくたって、皆風邪を引いて当たり前だろ。
うんうん、俺は悪くない。
一日でジェットコースターみたいに気温が変わるからいけないんだ、まったく。

「うーん、どうかなー。 僕は風邪引いてないけどね~。面倒臭がって最近天気予報も見てなかったし、君ももっと用心できたと思うけどな~」
俺の独り言を聞き咎め、ベッド脇から相棒がねちねちと釘を刺す。
あーもう、またかよ。
自分はピンシャンしてるからって煩いの何の。
ここぞとばかりに小言を言いやがって、勘弁してくれ。
おまえは俺の母ちゃんか。
「うるせえなあ。説教は聞き飽きたから、早くその冷えピタ貸してくれ」
「はいはーい。はい、どうぞ~」
冷えピタと一緒に薬も受け取って、嫌味な相棒に背中を向け布団にくるまった。
あ~。だるい。熱だけでも早く下げないと、しんどくて休んだ気もしねえや。
いつまでも寝込んだりしていたら、心配性の相棒もぎゃあぎゃあ鬱陶しくて敵わない。
しっかり治すのが最優先。
仕方ない。明日も仕事は臨時休業だな。
一区切りついたところでダウンしたのだけは運が良かったぜ。

「も~。ちゃんとしっかり休んでよ? 夜はリゾットにするから、一眠りして起きたら声かけてね」
「へいへーい」
いい加減な返事で手を振れば、心底呆れたため息が返ってきた。
そしてそのまま遠ざかる足音と、それに続きぱたんと部屋の扉が閉まる音。賑やかだった部屋に漸く静けさが戻ってきた。
やれやれ、あのお節介め。やっと出て行ったな。
こういうとき、独りの仕事じゃなくて、任せられる相棒が居るのは助かったさ。
けれども、世話焼きな性分に火がついて、手に負えないのが玉に瑕。
もちろん感謝はしているが、うっかりお礼なんか言ってみろ。
浮かれて図に乗るのが目に見えている。
現に今。廊下の向こうで、あいつが鼻歌交じりに去って行ったのを、俺はばっちり聞き逃しはしなかった。
くそ。張り切りやがって、腹が立つ。

それにしても、ああ眠い。
しっかり考えているはずなのに、思考が行ったり来たり。だんだん考えがまとまらなくなってきた。
飲んだ薬が効いてきた証拠だろう。
眠気があるうちに、素直に眠ってしまった方が良さそうだ。
起きたらリゾットって、あいつ言ってたな。
牛乳ベースか、トマトベースか。
どっちの味で作るつもりなのだろう。
あんまり濃い味じゃなきゃ良いけれど、まあこの際どっちでも良いか。
あいつが作る飯なら美味いに決まってる。

ごちゃごちゃ考えている間にも、意識はどんどん遠退いて。
疲れと風邪の気だるさに引きずられ、気の早いよだれも拭けぬまま。
いつしか俺はぐっすりと、深い眠りへと沈み込んだ。


(2024/10/22 title:060 衣替え)

10/23/2024, 7:07:09 AM