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季節の境目が来ると、会いたくなる人はいますか?






凍える指先で、私は何度も文字を打つ。





――なに?
雪だよ!
――そうだね。
冬だよ!
――そうだね。
おはよう
――おはよう。

朝から彼とのやり取りに胸が躍る。
震える指先を見つめながら、彼の返事をじっと待つ。

正直、どうしてここまで惹かれたのか自分でもわからない。
いつも曖昧な答えしかくれなくて、
真正面から話そうとすればすぐに視線をそらす。
まるで遠い何かを探すように、別の方向ばかり見ていた彼が、嫌いだった。

――けれど、惹かれた。

死の間際を行き来した人の匂いがしたからだ。
此岸と彼岸の境界を、かろうじて踏みとどまっているような気配。
彼が絶望の底を知っているからこそ、あの瞳は深く沈んでいた。

何かを見たいと願いながら、
実際にはどこにも焦点を合わせない目。

世界の音に耳を傾けることすらやめ、
ただ通り過ぎていく日々を眺めてきた耳。

白い吐息をこぼすたび、
「生きている」という事実を確かめるだけの口。

無力で、無価値で、それでもなお、
この不条理な世界でもがきながら生きようとする――
そんな、人間のかたちをしたかすかな灯。

きっとそういう人は、
死と生のあわいをぐるぐると循環しながら、この世界を漂い続けているのだと思う。

「茜、待った?」
彼が私の顔を覗き込む。

「待った!もう、めっちゃ待った」
「それはごめん」

彼はそっと私の手をつかみ、自分のポケットに入れる。
「冷たいなー、凍っとるやん手」
「んー、もう大丈夫かも。想のおかげ」

彼は雪のような人だけど、
同時に太陽のような人でもある。

あの白い季節になると、私はまた彼を思い出す。

                    「凍える指先」

12/9/2025, 10:32:34 AM