ミミッキュ

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"新年"

 帰ってきてから二時間程寝て再び耳あてと手袋を身につけてハナと外に出て、目的の場所へと歩いている。首元から顔を出すハナは、まだ日が昇らない外に興味津々な様子ででキョロキョロしながら、ジャンパーの中が暖かいのか喉を鳴らしている。
 朝日が見えやすい河川敷に到着する。もう人がちらほらといるが、俺はそれを横目にもう少し歩いていく。目的の場所は河川敷だが、本当の目的の場所は河川敷に入る道から、もう少し歩いた所。
「……良かった」
 目的の場所に到着した。同じ川だが、先程の場所より川幅が狭く、川の端と端を繋ぐ橋の傍には俺以外の人影が一つも無い。
 確かにあの場所も日の出がよく見えるが、この川の向こうは一軒家が多い住宅街の為、高い建物が少なく見晴らしが良い上に高架下で悪天候の時は橋の下に避難して雨宿りができる。言わばここは、俺の穴場スポットだ。
「みぃ」
 スマホを取り出して、画面に時刻を表示させる。
「……もうすぐか」
 スマホをポケットに仕舞う。吐いた息が白い霧のように目の前で霧散する。うぅ……、と寒さに身を縮こまらせると、視界の端にわずかな光が映った。顔を上げて光が映った方向に視線を向ける。
「おっ」
 日が昇り始めた。光の正体は太陽の光だった。眩しさに目を細める。じわじわと地平線の向こうから昇ってくる。
「みゃあん」
 初日の出にハナが一声鳴く。手袋越しにハナの頭を撫でる。
──今年も良い一年になりますように。
 そう心の中で呟いて、太陽が昇りきるのを見守る。
「……そんじゃ、帰んぞ」
「みゃん」
 ハナの鳴き声を聞いて身を翻すと、若干早足気味に帰路に着いた。

1/1/2024, 11:41:35 AM