部屋が仄暗いのは遮光カーテンのせいだけではなかった。
夏の勢力が緩やかに衰退した、午前4時半。
少し湿度のこもった寝室は雨宿りの匂いがした。
あー……。
雨、降るな。
アラームより早く目が覚める日は、だいたい天候が崩れる。
不規則になりがちな生活はこういうところばかり敏感だ。
気怠く締めつけてくるこめかみ周りに不快感を覚えながら体を起こす。
ため息をこぼしてもごまかせないこの頭痛は、寝込むよりも体を動かしていたほうがよさそうだ。
ベッドボードに置いていた眼鏡をかける。
まだ隣で眠る彼女のまんまるとした頭を撫でたあと、寝室を出た。
米を炊いて、味噌汁を作り、ほうれん草を茹でてみたりする。
我ながら贅沢な早朝の時間の使い方だ。
ゆがいたほうれん草をおひたしにしたあとは、調子に乗ってグリルで鮭を焼いて、フライパンで卵を巻いていく。
後片づけの段階で、朝から魚グリルを使ったことに後悔した。
調子に乗るとすぐ洗い物が増える。
袖を捲って気合いを入れたとき、ぽふっと背中にかわいいのが衝突してきた。
「おはようございます」
「……はよ。朝から絶好調だな?」
彼女はあきれたような感心したような複雑な表情で、俺の背中から洗い物の山を覗き込む。
「むしろこれから下り坂です。仕事行くときはきちんと傘持って行ってくださいね?」
「天気のことじゃなくて」
「俺もこれから下ると思います」
俺の言葉に、瑠璃色の瞳に影が宿る。
「もしかして、もう頭痛い?」
「ええ。しばらくしたら激しく降る予感がします」
心配させたいわけでもないし、心配かけるほどの不調でもない。
茶化しながら牛乳をグラスに注いで手渡せば、彼女は受け取りながら微笑んだ。
「……その頭痛予報、意外ときちんと当たるよね。ちゃちゃっと走ってくる」
寝起き直後のせいか、彼女の雰囲気はまろやかだ。
いつものバナナも1本差し出すと、彼女はお行儀よくテーブルの前に腰をかける。
「飯、がんばったんで、寄り道しないでくださいよ?」
「ん。ありがと」
ひょこひょこと揺れる細くて柔らかな青銀の毛先にキスをしてから、彼女の身支度を促した。
推進力を落とし憂いを帯びた天候は腰が重くなるものの、休息するにはちょうどいい。
『cloudy』
9/23/2025, 3:41:07 AM