香魅夜

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【時計の針】



最近の時計は、静音となるように作られていて、秒針が連続して滑らかに動く、つまり「カチコチ」と秒を刻む音が聞こえない。
昔から時計の「カチコチ」音が苦手だった私にとっては、非常にありがたい設計なのだが、今になるとその「カチコチ」音を求めてヒーリング音を探しているのだから、わがままだなぁと思う。

子どもの頃は、時計の秒針の音、自分の鼓動、一緒に寝ていた母の呼吸音が、寝入るのを邪魔していた。
眠るときは、規則正しい音が何より苦手だった。
それに気づいたのは、母の実家、つまり祖父母の家に泊まったときだ。
広間には大きな振り子時計があって、「カチコチ」と秒を刻んでいた。
昼間はほとんど気にならないが、夜中、皆が寝静まった後は非常に大きな音として聞こえてくる。
そして、川沿いに建っているため、川の音も「ゴーゴー」と響いていた。
時計、川と、途切れずになる音に「寝ろ、寝ろ」とせき立てられるような感じだ。
そして、自宅に帰っても、鼓動、呼吸などが気になり始めた。
一度気になってしまうと、なかなか意識がそらせない。
だから、私は本当に寝つきの悪い子どもだった。

大人になって、とある事情で精神を病み、それからは規則正しい音が苦手では無くなっている。
それどこるか、時計の音、風車が回す杵の音などを好んで聞いていたりするのだ。
自分の鼓動音が安心できる音に変わっていたのだった。

残念ながら、自宅の時計はみな秒を刻む音がしない。
静かで良いのだが、たまに、あの秒針の音が聴きたくなる。
秒針の音を「出す」「出さない」の切り替えがあるといいなぁと勝手なことを望んでしまう。

でも、今は眠れるようになったから。

時計は静かに進む。
私の鼓動も、静かに、でも確かに進む。
今住んでいるところでは、外の音も殆ど聞こえない。
昼、夜、通して、非常に静かな場所。
確かに進んでいくが、ぼんやりしていると、あっという間に時は進む。
世の中、無駄なことはなく、ぼんやりもまた今の私には必要なのだろう。

そう考えると、やはり時間というものは、万物に等しく与えられている。
その流れを視覚を通して時計から時空間を認識している。
時計の針によって等しく正確に時間のことを理解している。

あぁ、今日もそろそろ陽が沈む。
夜の静寂に、音もなく時は流れる。
時計の針は、滑らかに連続して動いている。

ありがとう。

何に対してかわからないけど、すべては時の中に沈んでいく。
人生は氷山のように、目に見えない部分が多く、自分でもわからない選択を連続して無意識に行なっている。

時は流れる。
時計の針もまた。

2/7/2024, 7:52:40 AM