るに

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ある所に
クマが酷いから
クマさんと呼ばれる
黒髪の少女がいた。
クマさんは不思議な力を持っていると
街中で噂になっていて
毎日何人かが
クマさんのツリーハウスを訪ねてくる。
私は人の心を虫めがねで覗けるのだよ、と
クマさんは言う。
どうやらそれは本当のようで
悩みを抱えた人たちが
ツリーハウスを訪れ
帰る時には何か引っかかっていたものが
スルッと解けたように
穏やかな表情になって帰っていく。
ツリーハウスはクマさんが作った
人々の安らぎの場なんだとか。
家の屋根から見えるクマさんは
今日も呑気でクマは酷い。
仮眠でも取ればいいのに、と
常々思う。
やれやれ…。
いつもカップラーメンを
3つ作る時間くらいは
人が来るってのに、
こう、1人も来ないと
それはそれで寂しいもんだねぇ。
特にすることもなくて
ただ小さな窓からの景色を見ていた。
するとギシッ、ギシッ、と
ツリーハウスのハシゴを登る音が聞こえた。
チリンッとベルが鳴り
ドアが開く。
あのー、クマ…さん?
様子を伺う私より少し年上の女性。
クマですけれども。
わ、えーっと、私勇気が欲しくて…。
あなた今心が複雑だよ。
解くからじっとしてて。
私はその女性が話始める前から
虫めがねで心を覗いていた。
色んな色の糸が心に絡まり
締めあげられている。
黒いピンセットで
慎重に解いていくと
1本の糸が原因だったことがわかった。
最近仕事が辛いんだろ?
見透かしたように私は言う。
そうなんです、
何故かわからないんですけど
毎日辛くて。
でもこれって普通の…ことですよね。
私が怠惰でトロくてマヌケで
言われなくても出来なくて
言われても出来なくて。
死んだ方がいいんじゃないかって。
そんなことない。
私はね、今日あなたに初めて会ったし
あなたのことなーんにも知らない。
けどね。
気がついたら死んでた、で良くない?
わざわざ死にに行かなくてもさ
勝手に死ぬんだし
ちょっとでもいいから
来世に期待できるぐらいの
何かをやったら?
女性は涙を何回も吹く。
それは違うんだと。
今が辛いから
待てないのだと。
来世は無くてもいいから
今世を終わりにしたいと。
仕方ないから
福が舞い込んでくるメイクを教えた。
それはクマメイク。
目の下にクマを作るのだ。
心配してくれる人が街にはいる。
何でもしてもらっておいで。
両手に大量のお土産を抱えて帰ってきた女性は
人の温かさが嬉しくて
ここに来てよかったと言った。
"Good Midnight!"
翌朝ぐっすり眠れた女性は
夢見る少女のように森を駆け
元の場所へと帰っていく。
もう大丈夫。
いつもツリーハウスに来る人が羨ましい。
悩んで悩んで
最後が人生の終わりで
羨ましいと思う。
私はもう、
死ぬのもめんどくさくなってしまったから。

6/7/2025, 7:19:39 PM