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「みぃちゃんと出逢って、何ヶ月たったかな? 半年? 一年?」
 あかるい茶色のうつくしさ。ぼくは、それを眺めいた。美しい。
「……あぁ、やっぱ、もう眠たいかな。おふとんしかなきゃね」
 薄暗くなった少年の部屋は、これから訪れる夜に震えているようであった。まだ、肌寒い。
「……あ、その前に。ご飯、用意するね。座ってて、疲れてるでしょ? 待ってて、みぃちゃん」
 僕は、おきあがって、すこしふらふらして、そうやって、冷蔵庫のまえ。付いた冷蔵庫のあかるさに、目をやられそうになっている。
「冷凍、ご飯でいいかなぁ。みぃちゃん」
 部屋は何の音もなく、少年の耳には、キィンと響く慢性的な耳鳴りだけが歩いている。薄暗い部屋の中に、月光が見えるくらいゆっくり、差し込んでくる。
「……ごめんねぇ、ごめんねぇ。みぃちゃん。冷凍、嫌いなのにねぇ。僕、料理下手だからさ」
 ボクは、冷凍庫のほうへしゃがんで、中を見てやった。かちかちのごはん。ひとつある。それを食べよう。

「……みぃちゃん、食べる? 美味しいよ、お米」
 少年は、茶碗を持って、写真立ての中の女性に話しかける。赤茶色と茶色の合間の色をした目と、黒い髪の毛。小柄そうに笑う女性である。その横には、少年が上手くない笑顔を称えている。
「はい、どぉぞぉ。ボク、貧乏だからさぁ。もっと、おいしいごはん、食べさせたいなぁ」
 とけえのカチカチ音がうるさくって、みぃちゃんの声がきこえない。しづかにして、ほしいなぁ。でも、みぃちゃんの顔がしっかり見れたら、それで、いいかもしれません。
「……食べない? 今日も? 大丈夫なの? こわいよ、みぃちゃん。ダイエットとか、しなくても、ぼくはみぃちゃんのこと好きだよ?」
 茶碗が地面に落とされ、中の米が布団の上に散らばる。布団の足回りには、同じような跡が見受けられ、肌色の、小さな虫が蠢いている。少年は、ベッド脇の、写真をぼうっと眺めている。
「……みぃちゃんがそう言うなら、仕方ないもんね。僕、わかるよ。ぼくの、問題じゃないもんね。あはは、ごめん。ごめんねぇ」
 あははは、あははは、あははは、あははは、あははは、あははは、あははは、あははは、あははは、あははは、あははは、あははは、あははは
「……みぃちゃん!!!なんで!! 食べてよ!!食べろ!!!食べろ!! なぁ!!僕は心配だらッ……だから!!言ってんだッろ!!!なぁ!!なぁ……あぁ……」
 少年はその場に跪き、畳の上に涙のシミが出来る。部屋は気が付かぬうちに、薄明るくなっていた。カーテンが遮って、外の様子は上手く捉えられない。
「……ごめんねぇ。怒鳴ってねぇ。ご飯、用意するから、ごめんねぇ」

5/5/2024, 7:45:11 PM