ジリリリリ――
目覚まし時計の音を鬱陶しく思いながら、むくりと体を起こす。
時計の針は朝9時を指している――今日は日曜だ。
ベッドから下ろした足から冷気が伝わってくるが、さして気にも留めず窓に向かい、カーテンを開けた。
薄暗い部屋に一気に光が入り込み、思わず目を細める。
――雪だ。
都心から1時間程車を走らせると、山の麓に古い家々が立ち並ぶ田舎道が続く。
そのうちの一軒家。車を停め、カラカラに干上がった池のある庭を通り、玄関の引き戸を開けた。
「来たよ」
靴を脱いでスリッパに履き替え、リビングを通って左手にある部屋へ入る。
お土産に持ってきたお菓子を差し出した。
「今日すごく寒くって、ここまで来るの大変だったよ」
「お母さんは仕事のつき合いで来れないんだって。
――私しか来れなくてごめんね、ばあちゃん」
時々車が近くを通る音のみがする静かな空間。
あたたかな陽光が差し込む畳部屋の一角、目が合う。
柔らかに笑う祖母は、記憶の中の彼女と変わらないーーよく撮れている写真だ。
大好きな祖母の命日。
線香の香りを感じながら安らかでありますようにと祈る。
幼い頃から行事の度にこの家で時を過ごしてきた。
夏には、空が暗くなりはじめる時間から酒やジュースを持ち寄り、庭で肉やら野菜やらを焼いて花火を楽しんだ。
冬には身を寄せ合い鍋を囲って、たあいもない話に花を咲かせた。
今は主なき古ぼけた家で――――ただ思いを馳せる。
「二人ぼっち」
3/21/2023, 12:30:33 PM