手紙を開くと


これは私が書いた彼への手紙だ。

手紙を開くと、そこには恥ずかしいほどの言葉の羅列がならんでいた。

それは気恥しいなんてものじゃない。

もはや愛情の押し付けかと思う。

嫌、むしろそこからは狂気に満ちた人間のおぞましさすら感じ取れる。

でもいいのだ。

どんなに恥ずかしくても、よしんばおぞましくたって一向に構わない。

どうせこの手紙はあの人には届かない。

なぜなら、これは出さない手紙なのだから。

私は今日もあの人に手紙を書く。

言いたくても言えなかった可哀想な数々の言葉の欠片を心の中から引っ張り出し、一通の手紙として仕立てるのだ。

もう何通になるだろうか？

こうしてしたためた手紙が、螺鈿細工を施した静謐な文箱の中で眠っている。

あなたがくれた、最初で最後の贈り物の中で。



お題
手紙を開くと

5/6/2025, 7:23:16 AM