はた織

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 つづらふじに包まれて絡まれた廃屋。緑と灰の朽ちて潤う色とりどり。灼熱の日差しに貫かれた天井から落ちる冷たき影。人肌恋しがる無数の虫とたましいの呼吸で湿った腐臭の暗闇。鳥肌立つ寒気が、途絶えて久しい足跡から漂う。床に散らばったガラスを踏むと、パキパキと捨てられた存在を鳴き叫ぶ。腐っている床の隙間から松葉海蘭が客人を出迎える。その真っ直ぐに立つ姿は、墓石に添えられた線香だ。水晶の如き埃が白煙となって天に昇っていく。自分の心臓の鼓動さえもうるさいほどに閑静に満ちている。有象無象の阿鼻叫喚を全て湿った影に落とした無情な静寂さ。赤子の泣き声までも呑み込む冷酷な沈黙。いずれは私の生きた呼吸もただの空気と化す。自然の手にしか行き届かない廃屋の中の読書は格別だろうなと、何もせずに、私は見えない膜に覆われた暗闇の中で立ち尽くした。
                 (250727 オアシス)

7/27/2025, 1:01:51 PM