前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某深めの森の中に、
本物の稲荷狐が居る稲荷神社がありまして、
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織の職員が、「この世界」の独立性・独自性を保つための仕事で、ワーケーションに訪れていました、
が、
違法に密航してきた異世界人が東京で暴れてくれやがったので、残念、仕事+バケーションどころか普通の仕事日和となってしまいまして。
しゃーないのです。
東京は魔法少女も、魔女も、妖怪もオバケだって、
普通に、ふっつーに、居るのです。
ただそれらは「この世界」から生まれたもの。
「この世界」の外から違法に密航してきたやつらを、世界線管理局は見つけて、ぐるぐる縛って、
強制送還なり収容なり、するのです。
で、前回投稿分ではそんな管理局員が、
仕事日和の3徹目に突入して、コーヒーをキメて、
バッタン、寝てしまったワケです。
寝てしまったコーヒー大好き3徹職員は、ビジネスネームを「ツバメ」といいました。
「……あたまがいたい」
ツバメが気絶のような睡眠から目をさますと、
おやおや、いつの間にかツバメにタオルケットがかけられておって、やわらかい生地が体を、
柔らかく、そっと包み込んで、おりました。
「こぎつね、子狐?お前がかけてくれたのか」
タオルケットの中にはツバメの他に、子狐も一緒に丸まって、すぴすぴ、すぴすぴ。
背中をナデナデしてやると、寝ぼけてツバメの右手にお鼻をすりつけて、ペロペロ、あむあむ。
甘噛みなどして、頭も撫でろとぐりぐり……
そうです。頭です。
ツバメ、寝起きのせいというより、カフェインの離脱症状でしょう、ともかく頭痛が頭痛なのです。
「ぐ……」
ダメだ。いたい。こまった。
ツバメはガンガン、どんどん、脳の血管拡張のせいで発生している痛みをなんとかするために、
子狐のお父さんに、相談に行きました。
実は子狐のお父さん、都内の某病院で仕事をして納税もしている、漢方医さんなのです。
人間の知識と実例の結晶たる漢方と、それから不思議な狐の薬とで、人間の心身の悩みに寄り添う、狐のお医者さんなのです……
「――はい。カフェイン依存症ですね」
場所は変わって、都内の某病院。
稲荷神社の宿坊を借りている異世界組織の職員さんの主訴(なやみごと)を詳しく聞いて、
コンコン子狐のお父さん、きっぱり名言しました。
「コーヒーが抜けると頭が痛くなる。体を動かすと余計に痛みが増す。 カフェイン依存症の一般的な離脱症状です。 一緒に治療していきましょう」
はい。まず、コンコン・ズツウ・シズメール錠剤。
それからスクナヒコナ製薬のカフェイン阻害薬。
ひとまず朝起きたら朝食前に1錠ずつ。
足りないようなら少しずつ、量を増やしましょう。
コンコンコン、こんこんこん。
漢方医なお父さん狐、バイトで助手をしてくれている女性にお願いして、12番の薬箱の中身を1包煎じてもらいながら、
そのバイトさんに見覚えのあるらしいツバメに、
薬の説明を、淡々と始めました。
「この薬があれば、コーヒーを飲んでも、」
コーヒーを飲んでも、頭が痛くなりづらくなるのですか。聞こうとしたツバメはその前に、
助手さんから薬茶を受け取ったので、ひとくち。
鼻に抜ける香りはザ・薬茶でしたが、
飲んですぐ、お茶の効果はツバメの頭痛の根源をそっと包み込んで、痛みをやわらげてくれました。
血管の拡張を、少しだけ抑制したのです。
血中のカフェインを、少しだけ阻害したのです。
「そうですね。 コーヒーを飲んでも、カフェインがキマりづらくなります」
覚醒目的、目覚まし目的のコーヒー、ダメ、一旦。
狐のお父さんは淡々と、ツバメの徹夜の手段を摘み取って、排除して、無駄無駄にしてしまって、
「ひとまず、ちゃんと眠くなったら寝てください」
そして、至極真っ当な助言を、しました。
「時間が足りないのです」
眠気が無くなる薬を貰えませんか。
ツバメが最後の望みを狐のお父さんに言うと、
「気持ちは分かります。忙しいのですね」
お父さんはツバメの気持ちをそっと包み込んで、
「寝てください」
クシャクシャして、遠くにポイちょ、無慈悲に投げ飛ばしましたとさ。 しゃーない、しゃーない。
5/24/2025, 6:01:21 AM