三上優記

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 世界が滅んでどのくらいたっただろうか。
「薪、持ってきたぞ」
「あぁ、ありがとう」
 錆びついたライターで手早く火をつける。満点の星空の下でボロボロのテントが揺れた。遠くには倒れたままの電灯が見える。
「ここにも人はいないわね」
「生き残ってる人間をさがすなんて、砂漠の中から針を見つけるようなものだ。生き物の気配すらも感じることが難しくなってきている」
 不意に彼女が私の方を見た。長い黒髪が揺れる。
「なぁ、なぜ夜は眠るんだ? 私たちなら夜歩けるだろう」
 ひらりと上げた無機質な手。夜闇を見通すガラスの目。食べ物も睡眠も必要としない鉄の体。
「人間というものを忘れないためよ」
 私はそのまま寝転がった。冷えたコンクリートの地面。その冷たさももう分からなくなりつつあった。
「そうだな。私たちが機械であることを忘れない為に」
 生き物の鼓動のない大地の冷たさを感じながら私は眠らない目を閉じた。

3/21/2023, 4:02:56 PM