形の無いもの
僕には、「形の無いもの」が視える。
こころ。
身体のなかの血の巡り。
亡くなった魂。
挙げたらきりがないくらい。
でも、いつからか言わなくなった。
何故か。
――気味が悪い。
そう、言われたからだ。自分でも、色々思うことはある。
でも、ふたりが。
『ありがとう』
『優しい力じゃないですか』
そう、言ってくれたひとがいる。
二年前に事故で亡くなった、僕の弟と、その彼女さんだ。
弟は言う。
『世の中、形のないものなんて、ごまんとある。兄さんにはそれが見える。それは、すごく優しいことだよ。きっと』
弟の彼女さんも、こう言った。
『気味が悪い、って言うひとの言葉なんて、気にしないでください。お兄さんのおかげで、私は家族へ遺言が伝えられたんですから』
そう、遺言。
僕は、彼女さんの言葉をご家族に伝えた。『視える』ことを話してから。
最初はやっぱり、信じてもらえなかった。でも、何度も伝えたんだ。本人の想いを見て。その遺言を聞いて。
そしてある時。
「ずっと、頭が混乱してるけど……。それらが全部、本当なら」
「――教えてくれて、ありがとう」
形の無いもの。
僕は今日も、色んなものと向き合う。
いつか、本当に視えなくなる日がくるだろう、魂だけの僕の弟とその彼女さん。
二人の形なき言葉を、心に抱えながら。
9/25/2024, 5:52:58 AM