あの日もこんな雨だった。
晴れていればその煙は龍の様に登って行けただろうに。
数時間経って対面した彼女はもう姿形は何も残っていなかった。あるのは燃え残った骨ばかり。
顔のあたりの小さい骨をツンと指で突いてみる。良かった...壊れなかった。それを指で摘みポッケに隠した。
親族の居なかった彼女の骨は職場の私たちが集めて骨壷に入れた。それを親代わりの上司が大事に抱えた。
こんな事ならさっさとプロポーズして自衛隊だなんてそんな危険な仕事を辞めさせておけば良かった。
10年、ずっとすきだった。何故言葉にしてこなかったのだろう。触れたかった。愛していた。
外に出て空を見上げる。
『ずーっとだいすき』
雨に髪や肩を濡らしながら振り向きざまに言った、彼女の顔が思い出される。
何故直ぐに返事をしなかったのか。いいレストランで、いいシュチュエーションで、なんて変なプライドは捨てて、その場の感情でただ答えればよかったのに。
ポツポツと顔に降り注ぐ粒に隠れる様にしながら涙を流して、ポッケにある彼女のカケラを飲み込んだ。
#雨に佇む
8/28/2022, 2:51:33 AM