「渡り鳥」
渡り鳥は行く鳥なのか帰る鳥なのか?と話し合ったことがある。
野生動物のドキュメンタリーフィルムを観ていて、白鳥が飛び立って何処かへ向かって飛んでいた。
「あれは、行く鳥なの?帰る鳥なの?」
彼は少し困った様に思案して言った。
「基本は何処かに行くんだろうけど…去年は回り回って目的地から来たんだろうから…帰りとも言えるのかな…」
「ずっとハードル超えが止まらない陸上競技みたいね。」
「うん、でも、」
彼が横で言い淀みつつ、フィルムの白鳥を見遣った。
「飛んでる時は一匹ってわけじゃないだろう。誰かしか仲間がいて、集団で動く。
その、飛んでる時に常に横に仲間が居るなら、
それは、行くんでも帰るんでもなく、
その日が「今日」で、そこが「居場所」なのかもしれないよ。
私は白鳥から目を外して、彼の横顔を見ていた。
「ポップコーン作って頂戴、今すぐ。」
「もう21時だよ?」
「今から映画観ないと押し倒すよ。」
ポップコーンをひっくり返したみたいに彼は笑い出して、私のためにキッチンに向かって歩いて行った。
勿論、十数分後には、塩バター味のポップコーンを持って、彼は「帰ってくる」。
了
5/29/2025, 6:03:42 PM