「日の出」
夜、眠れなくて勉強をしていた。下からは親が喧嘩している声が聞こえる。上の階まで響く声量、また近所の人に迷惑がかかっている。
直接僕に声に対する文句は言われない。なんなら心配され、哀れまれる始末だ。
何度も警察が来たことがある。母がヒステリックを起こして包丁を振り回したり物を投げて壊したりするからだ。
それに対して父は暴力で反撃する。どちらも変に負けず嫌いで、生死なんてどうでもいいのだろう。どっちも深手を負って搬送された経験がある。それでも、家庭内のことだから、警察は何もしない。
幸いなことに僕には声のせいで寝れないこと以外、被害はない。
学校から帰ったら机にお金が置いてあるのでそれで適当にご飯を買う。余ったお金は貯めるか売店でパンを買うために使う。
薬局で嗜好品を買うこともあるけど、それでも貯金に回せる額が残る。
うちは貧乏ではない。共働きで、どちらかと言うとお金はあるほうだ。それでも両親の仲は冷めきっていて、なのに喧嘩には熱が入って、早く離婚すればいいのにと何度も思った。
僕も、二人に必要とされていないことは知っている。それでも、高校と大学には行かせるつもりらしく、参考書など、勉強に必要なものが欲しいとメモを机に置いておけば、次の日には机にお金が置いてある。
せめて行くなら偏差値が高いところに、それと、暇を潰すために僕は沢山勉強をしてきた。
テストの点も悪くない。一応知らせておこうと成績表と点数表は机に置いておく。点数がいいと次の日お金が多く置かれていることから、多分育児放棄するほどでは無い。なんならマシな方だ。
僕に手を上げたことは無いし、会話がないだけでなにか文句を言われたり怒鳴られたりすることもない。だからかなり自由にさせてもらっている。睡眠以外は。
喧嘩がいつもより酷かった次の日には、父がたまにメモ付きでお金を置いていくことがある。そのメモには勉強の邪魔をしてすまなかった。とだけ書かれている。一応二人とも最低限のことはしてくれているし、僕ももう中三だ。ある程度のことは自分でできる。
カーテンの隙間から見える空が、少し明るいことに気がついた。もうそんなに時間が経ったのか。
気づけば喧嘩も終わっていたようで、家は静寂に包まれていた。集中していたのと、たまにチラつく考え事で時間の進みを見ていなかった。時計は六時半すぎを指している。寝る時間、ないな。
何度も見た日の登る瞬間。これを見ると虚しくなる。キラキラと光る太陽は一日の始まりを表していて、また今日が来た、と自覚させられるからだ。
荷物をまとめて身なりを整える。教材をまとめて机の上を片づける。時間は七時を過ぎていた。そろそろ向かわなければ。
コートを着て、リュックを背負う。リビングに置いてあるお金を持って、靴を履く。
「……行ってきます」
返事なんか帰ってくるわけない。それでも、一応口に出して、今日も行きたくない学校に行く。
今日は夜、眠れるといいな。そう考えながら僕は通学路でご近所さんに挨拶しながら学校へと向っていくのだった。
1/3/2026, 1:01:57 PM