飯井 さけ

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日本という国には四季があるらしい。
春、夏、秋、冬の四つが一年を通して過ぎていく。と、今読んでいる本に書かれている。

「また読んでんの?それ」
千里は勢いよく本を閉じた。
「もう、ビビり過ぎ。先生今職員会議だから。別に少し見てるぐらい大丈夫だって」
背後から視界に入ってきたのは、同じクラスの美希だった。千里に「おは」と、声をかけ、教室の隣の席に座って優雅に足を組み、こちらを見てくる。

「真面目だね。今日のはなんの内容?」
「季節の話だよ。今は夏のところ」
千里はさっき閉じた本を開き直して、四季『夏について』と書かれているページを見せた。美希は椅子を近づけて、本を覗き込む。
「夏?……え、暑いの?夏」
「うん。四十度近くなる日もあるらしいって」
「外出るの絶対無理なやつ……ほら、これとかよく生きてられるよね」
千里は美希が指さした箇所を見た。挿絵には海で楽しそうにボール遊びをする家族が描かれている。
「流石にこれは死ぬやつ」

確かに死ぬかな。と思ったが、千里は味わったことの無い四十度は少し興味があった。一度だけでもいいから暑い夏という季節を過ごしてみたいという好奇心が、いつか満たされる日が来ればいいなと考えながら、鼓動が少し速くなっている胸を押えた。


【夏】フィクション作品 #3

6/29/2023, 8:05:11 AM