帰りたいな......と今日何度目か分からないため息を吐きつつ、ぼーっと電車に揺られる。
期待なんて一欠片もなく、不安だけが渦巻く状況でふと動画アプリに手が伸びる。
「それは失ったのではなく我々は元々ゼロ、所謂虚空だったという話でございます。」
アプリを開いた瞬間に動画が再生され、流暢に話しだす声が聞こえる。もちろん電車内であるため音は切っている訳だが、毎日暇な時と再生してきた彼の声は字幕を辿るだけで脳内に奔りだす。
暫くして電車から到着の合図が鳴り、それに続くようホームに足をおろす。
好きではない事など世の中に余るほどに存在している。この苦行も所詮その一種に過ぎない。持っていたと考えるからダメージを受けるという彼の言葉は案外的確なのかもしれないな、などと適当に脳内会議を締めくくり歩を進めることとした。
「好きじゃないのに」
3/26/2024, 3:02:42 AM