川柳えむ

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 夜の海は、墨汁をこぼしたかのように。真っ暗な水平線がただただ続いている。
 闇の中、波の音だけ響く世界に、得体の知れない恐怖を感じたものである。

 そして今、私はまた恐怖している。
 あの夜の海を思い起こすような、激しくこぼした墨汁。
 賃貸の床。
 夏休みの宿題である習字をやっていた息子。

 得体の知れている恐怖は、当時感じた恐怖よりもっとずっと怖いものだった。


『夜の海』

8/15/2023, 9:18:35 PM