ちょる

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「英、だいじょうぶ……じゃないよな。」

英の机の上には散々な落書きと共にぐちゃぐちゃになった教科書の類が散乱していた。英瑠衣(はなぶさるい)は同じ科学部の後輩で少々ヤンチャな節はあるが憎めない可愛いやつだ。こいつは部活を休むことは少なくないが、そういったときは必ず一報入れてくれている。あんまりにも来るのが遅いので1年の校舎棟まで来てみたらこれだった。

「っ、渚先輩。」
「お前、なんでこんなになるまで俺になんにもっ、……いや、説教は後でいいな。先に片付けて部室行くぞ。」
「……ごめんなさい、先輩に迷惑かけちゃって。」
「そう思うならさっきから溢れてる涙拭け。これ、貸してやるから。」

英はすみませんと小さく呟いて俺が差し出した薄黄緑のハンドタオルを受け取る。英の長いまつ毛が涙で濡れている。それに俺は何故かつい見惚れてしまっていた。
この惨状を見て察せない程俺も子供じゃない。英は所詮いじめにあってるのだろう。英は容姿端麗だが、人見知りしがちで馴染むのに時間がかかる。そういったところが気に入らない輩がいたのだろうか?どう頑張って考えたところで憶測の域を出ないそれは特になんの意味のなさないのだろう。
俺のハンドタオルに顔を埋めていた英がバッとハンドタオルを取り払い、俺の方をむく。薄黄緑の一部が濃くなっていて、そこにあの瞼が押し付けられていたのかと一瞬妄想する。

「っし、先輩行きましょう!俺、もう大丈夫です!」
「おう、もう、無理はすんなよ。」
「ハイっす!」
「……あと俺に相談しろ。」
「わかりました!」

今さっきのことが嘘のようにニコニコと笑う英。こいつはまるで忠犬のように俺に懐いているが、全くもってその理由は分からない。それでも俺はこのポジションが中々気に入っていて未だ誰か他人に譲るつもりはない。
俺の隣を嬉々として歩いている英を眺める。俺は薄々こいつへのこの思いに気がついてはいるが、どうかまだ、友情だということにしてはくれないか。

7/24/2023, 12:54:50 PM