消えてほしくない傷痕があった。
昔飼っていた猫にひどく引っ掻かれてできた傷だった。
猫はその後間も無くして逝ってしまった。
傷跡にかさぶたができる度それを剥がした。
治ってほしくなかった。
消えてほしくなかった。
初めて心から愛おしいと思える存在だった。
結局傷痕は綺麗に治り、今はどこに傷があったのかもわからない。
あれから何年も経ち、その猫のことを思い出すことも少なくなった。
耐えられないほどの喪失感に苛まれることもなくなった。
家の中で面影を探すこともなくなった。
もうなくなってしまった。
『喪失感』
9/10/2024, 11:52:17 AM