鳴った。
とても遠くで。
まるで、別の季節の記憶に引っかかった音。
風鈴は窓辺で揺れ、
ガラス同士が触れ合って、
優しい痛みを生んでいる。
触れたがって、でも壊れたくない、そんな音。
去年の夏が、またぶらさがっていた。
軒先で。
何も変わらないように見えて、
どこかが欠けたまま。
音の正体はたぶん──
私の言えなかった言葉。
わたしが聞こえないふりをした瞬間。
ふたりの沈黙が吊るされたまま
風に吹かれている。
繰り返されるたび、音は軽くなっていく。
まるで忘れる練習をしているように。
もう一度、風が吹いたら壊れてしまいそう。
でも、鳴らないと寂しい。
ねえ、覚えてる?
あの音は、私たちの声の代わりだった。
鳴るたび、ひとつの嘘が風に溶けていった。
鳴るたび、ふたつの影が少しだけ離れた。
風鈴が落ちる日、
わたしたちはやっと話せる気がした。
7/13/2025, 5:06:36 AM