かたいなか

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「単純に『エイプリルフールの日に、こういう真実の出来事が起こりました』ってだけでも、アリっちゃアリなんだろうな。お題なんざ多分、どうとでも解釈可能だろうから」
詰め放題、「幕の内」、ライバル店のメニュー入荷。今年のエイプリルフールは飲食店ネタが目立った気がするけど、他の業種はどうだったのかな。
某所在住物書きは某チキンとバーガーをかじりながら、ネットニュースを確認していた。

エイプリルフールも料理も、さじ加減。
バランスや分量を間違えて、「自分は好きだけど、他者と共有したら大多数に怒られた」には注意したい。
「そのさじ加減がぶっちゃけ難しいってハナシ……」

――――――

新年度だ。
またノルマに振り回される1年が巡ってきた。
近々細長い紙っ切れ1枚、しれっと机に置かれて、
末尾に書かれてる数字を、1年かけて追いかける。
ときに同僚と協力しながら。
ときに悪徳上司に客を取られながら。

で、長年そのノルマレースを一緒に二人三脚で走り続けてきた先輩が、先々月まで居たんだけど、
3月から互いに離れ離れで、お互い別々の部署なり支店なりに飛ばされちゃって、
私は何故か、チルい支店で先月から、「その先輩の旧姓を自称する謎の男」と一緒に仕事をしてる。
自称、旧姓附子山。
付烏月、ツウキっていうひとだ。

何の冗談だろうって思うけど、
4月1日以前、一緒にこの支店に来た3月最初の時点で「附子山です」って言ってるから、
エイプリルフール的ジョークでは、ないんだろう。
たとえそれが嘘だとしても。
私達あるいは「誰か」を騙すフェイクだとしても。

「付け焼き刃附子山の〜、付け焼き〜Tipsぅー」
「今日もやるの、付烏月さん」
「何度も言うけど附子山だよ後輩ちゃん。ブシヤマ」
「で?」

「『質問に答えながら目を逸らしたり、横を見たりする人は、相手を」
「それ知ってる。相手を騙してるんでしょ」
「――騙してる』とよく言われるけど、これは既に複数の研究によって、誤りであると証明されてるよ」
「マジ?!」

「情報を整理したり、考え事をしたり、疑問を処理したりするとき、横とかに視線が動くのは、専門的には『側方への共同性眼球運動』と呼ばれているよん。
何か頭の中で考え事をしてるのは確かだけど、それだけで、騙してると決めつける指標にはならないよ」
「はぁ」

そうだエイプリルフールだ。今日は4月1日だ。

「付烏月さんって、藤森先輩の旧姓の『附子山』、いっつも名乗ってるじゃん」
相変わらずのチルい我らが支店は、忙しくなくて、モンスターカスタマー様も来なくて、優しい常連さんが支店長とお茶飲んでおしゃべりするような支店。
つまり今日もヒマ。
「実はその『付烏月』も、偽名だったりするの」
エイプリルフールにちなんで、付烏月さんにちょっと疑問をぶつけてみた。
ぶっちゃけ、返事はジョークでも何でも良かった。いわば雑談、中身の無い社交辞令に似たサムシングだ。

「ん〜?」
付烏月さんは私の目を、目の奥の心の中まで見透かすようにジーっと観察して、
「んー」
私から目を逸らしたり、横を見たりなんかして、多分それこそ面白そうな「騙し」を探してるんだと思う、
最終的に、腕組んで天井見上げて、数秒。
それから、ポツリ言った。

「どっち方面のエイプリル聞きたい?
『実は俺と藤森、ここと違う世界線では同一人物だったんだ!』っていうトンデモシリアスと、
『なんと、実は俺、藤森の生き別れの兄で本当に旧姓附子山なんだ!』っていうありきたり設定と、
『嘘みたいなハナシだけど、俺と藤森は結婚してて、元々附子山姓だった俺が藤森に婿入りしたから旧姓附子山なんだ!』っていう最高火力の大嘘千万と?」

「……もちょっとフツーのやつ無い?」
「付烏月は元々、『月』を左右2分割した中に『烏』の字を入れる特殊漢字1文字で『ツウキ』と読んでて、歴史を辿ると『附子山』と接点があって、附子山家と付烏月家はお互い光と影みたいに、お殿様に仕えて悪いやつらをやっつけてたらしい」
「待ってそれ事実?エイプリルフール?」

「勿論半分嘘だよん」
「『半分』の『事実』、どっち……?!」

4/1/2024, 2:42:05 PM